介護の口臭予防にもつながる誤嚥性(ごえんせい)肺炎予防は、介護をする人にも介護を受ける人にもとっても大切なことなのです。
大切なことなのに誤嚥性という字が難しくて、あまりに知られなさすぎて残念です。
よく間違えられる「誤飲(ごいん)」は、危険な異物を飲み込んでしまうことで、「誤嚥(ごえん)」と響きは似ていますが別物です。
誤嚥性肺炎予防のお話を伺えたのは、長めの入院をお見舞いしたときのことでした。
手術後のリハビリの先生から、入院もお見舞いも退屈時間に、「誤嚥性肺炎の予防について、ご家族の方も一緒にお話を聞かれますか? 言語聴覚士の先生がご説明してくださいますので・・・。」と、お声をかけて頂き、病院のデイルームでの思いもかけない約1時間講習を受けたような感じでした。
いくら入院が退屈だからといっても、手術後の人が約1時間も、食事用の丸いテーブルで講習を受けて疲れないのか心配でしたが、興味深い内容で聞き入っていました。
病状によって違うので無理のない範囲で、知識が身につく時間を病院内で作って頂けるのはありがたいことです。
大切な誤嚥性肺炎の予防についてのお話を、言語聴覚士の先生は、「本当はもっと身近で簡単にお知らせしたいのですが、のどの構造など目に見えない部分を理解して頂くためには、どうしても約1時間はかかってしまいます。・・・となると、診察中の先生も看護師さん方もどなたも説明する場所も時間も取れません。誤嚥性肺炎の予防を広めたいのに難しいです。」とのことでした。
◆「誤嚥性肺炎」とは?
口の中やのどに住み着いている細菌などが肺に入ることが原因で起こる、高齢者の肺炎です。
誤嚥=食物や唾液が誤って気管に入ってしまうこと。
誤嚥した食べ物や唾液に含まれる細菌が肺で増えて炎症を起こします。
特に夜、知らない間にじわじわと唾液が肺に流れ込んで肺炎になりがちです。
◆なぜ「誤嚥性肺炎」が、高齢者の肺炎なのか。
高齢になると、嚥下(えんげ)機能=食べ物を飲み下したり、口の中の食べ物のかたまりを胃に送り込む運動機能が衰えるからです。
◆なんと!気道と食道は、のどの中で同じ場所を通って交差していた。
言語聴覚士の先生は、のどの模型も持ってきてくださいました。
人差し指1本のスペースしかないのどの中で、気道と食道が交差していたとは・・・人体の不思議!
気道=呼吸するときに空気が鼻から肺に流れる。
食道=嚥下するときに食べ物が口から胃に流れる。
交差しているなら誤嚥も起こりやすいわけですね。
しかしながら、人体はそんなに弱くはなく、誤嚥の防御機能があったのです。
「嚥下反射」と「咳反射」です。
嚥下反射
食べ物がのどの奥に来ると、自動的にノドボトケ付近が上がってきて気管の入り口にフタをして気道をふさぎつつ、普段閉じている食道の入り口が開いて食べ物が流れ込むという反射です。
咳反射
少しでも誤って気管に食べ物などが入りそうになると、反射的に強い咳が出て食べ物などを外に押し出します。
◆「嚥下反射」と「咳反射」は加齢で衰える。
歯が弱くなりうまく物が噛めなくなる→唾液の分泌量が減る→舌などの嚥下動作が鈍る。
呼吸筋などの筋力がなくなり強い咳が出せなくなる。
ノドボトケの位置が下がってくることで嚥下のタイミングが遅れる→のどに流れ込むスピードが速い水分などでむせる。
抵抗力(免疫力)が加齢で低くなる→病気にかかりやすくなる→治りにくくなる。
隠れ脳梗塞と呼ばれるとても小さな脳梗塞が多くなる→咳の反射が鈍くなる→咳が出にくくなる。
◆誤嚥性肺炎の予防の重要性とは・・・。
誤嚥性肺炎の原因=嚥下機能の低下
いつもの「むせ」だと軽く考えがちで、本人自身に生命にかかわる問題としての自覚がなく、ほったらかしてしまう。
嚥下障害や、誤嚥性肺炎の予防について指導や情報が少ない。
薬で肺炎症状が治っても、嚥下機能は低下したままなので退院後も誤嚥を繰り返し、再発するケースが多い。
日常生活の中で介護を受ける人も介護をする人も、肺炎予防に注意を向けることが重要になります。
誤嚥性肺炎の予防法
口腔ケア
口の中の細菌を増やさないこと。
誤嚥予防
誤嚥自体を少なくすること。
抵抗力の低下予防
栄養状態の改善などで免疫力をつける。
◆具体的な予防対策
口腔ケア
誤嚥性肺炎発症を40%も抑制できます。
歯だけでなく粘膜も掃除する。
歯と同時に、舌・ほっぺの内側・口の天井などの粘膜を、やわらかいスポンジやブラシを使って丁寧にぬぐい、ぬるぬるを取る。
寝る前に掃除することが重要。
寝ている間に唾液を吸い込むことを考えて、寝る前に行うことが重要です。
入れ歯は外して寝る。
ブラシで表面を掃除するだけでなく、洗浄剤に漬けて中に染み込んだ雑菌も除菌しましょう。
入れ歯をつけたまま寝ると肺炎リスクが2倍になります。
食前のウォーミングアップ
最初にお茶で口を潤すなど、一口目がむせやすいので慎重に・・・。
口が乾いていると食べ物を飲み込みにくいので、食事を始める前には、お茶などを飲んで口を湿らせてから食べる準備をしましょう。
誤嚥しやすい食品
「お餅」は有名ですが、意外と危険なのに知られていないのが「パン」です。
パンは大きめを口に入れて、あまり噛まずに「のど越し」で食べるので、飲み込む力が弱ってくると窒息事故になります。
手元に水分を置いて安全第一で食べましょう。
咳払い
食べたあとにのどに違和感が続くようになったら、一口飲み込むごとに積極的に咳払いしましょう。
のどの力が衰えてくる→飲み込んだ後に、のどの奥に食べ物の一部が残る→違和感→そのまま食べ続ける→誤嚥してしまう。
普段から咳払いをしている→誤嚥したときに強い咳払いができる→筋力強化。
とろみ剤
最初にむせ始めるのは水やお茶などの水分です。
高齢でノドボトケ付近が下がってくる→嚥下反射(飲み込むときのごっくん)のタイミングが少し遅れる。
とろみ剤を使う→のどに流れ込むスピードが落ちる→むせにくくなる。
とろみ剤の混ぜ方にも注意が必要です。
よく混ぜないとダマになり、濃すぎて飲みにくかったり、味もまずくなります。
逆流予防
食事が終わってもすぐ横にならないで、上半身を約30度起こして1~2時間は安静にしましょう。
加齢で胃液が逆流しやすくなります。
胃液に含まれている胃酸(塩酸)で食道粘膜を傷つけると感染しやすく、肺に誤嚥すると少しでも致命的になります。
低栄養
栄養不良は、免疫力の低下原因です。
厚生労働省の調査によると、70歳以上の5人に一人が栄養失調に当てはまるそうです。
肉や卵などの動物性食品の取り方が少ないとのことです。
小食の方は、おやつで乳製品(牛乳・チーズ・ヨーグルト)などからカロリーやたんぱく質を補うようにしましょう。
水分補給
1日1リットルを目安に、こまめに少量ずつ(約200cc)飲みましょう。
のどの渇きにも鈍感になり、水でむせるようになると、なおさら脱水になりやすいです。
脱水傾向→痰が固くなる→咳で痰を外に出すことが難しくなる→誤嚥性肺炎になる。
一回で胃から吸収できる水分量は約200ccなので、少量ずつ、こまめに飲むことが重要です。
介護を受ける人(高齢者に視点を当ててみました)の誤嚥性肺炎治療は打ち切り説大ならば予防に力を入れなくては・・・。
日本呼吸器学会は「成人肺炎治療ガイドライン2017」で、高齢者の肺炎は「積極治療しない選択肢」を示しました。
誤嚥性肺炎は、薬でどんなに抑えても、原因となる生活習慣や口腔ケアなどに気を配らなくては繰り返すだけなので、予防が本当に重要です。
介護する人もご自身の健康にとってもケアしながら口臭予防や美容にも効果ありなら、気を配りたいところです。
忙しくても続けられるように、難易度を高くしないように工夫してみませんか?
口の中の清潔を保つために歯だけではなく舌やほっぺの内側や口の天井の汚れを拭い取るには柔らかめの歯ブラシが理想です。
普段から柔らかめの歯ブラシを使っている人なら構わないのですが、普通の固さの歯ブラシを使っていた場合には、別に柔らかめの歯ブラシや舌用のブラシなどを用意したりしたら、面倒になって続かなくなったりしませんか?
自分の舌で唇の内側の歯茎を右回り左回りとクルクルしっかりとなぞるのも、ほうれい線予防や小顔効果にも良いようですし、傷がつくこともなく、歯磨きついでに続けられそうです。
ただ、舌の掃除に普通の固さの歯ブラシは、当てる程度にしないと、ゴシゴシは禁物です。
舌には味覚など大切な部分があるので慎重に行いましょう。
歯ブラシの持ち方はエンピツ持ちで、奥歯の先を磨くのにも歯ブラシをほっぺの終点まで届かせたら口をしっかり閉じて、ほっぺの力で歯ブラシを挟み込むように動かす程度で、安全に奥の汚れまで届かせられます。
ついでに利き手でないほうで持つと、脳トレにも良いかもです。
歯の磨き方って、たぶん子どものころから人形の歯を使って教えてもらってたはずなんですけど、汚れていないものを磨いてもキレイになった印象がなくて記憶に残っていません。
お風呂でもキッチンでも汚れた部分に歯ブラシを当ててみて、どういう動かし方をしたら汚れが取れるか印象つけるのも、歯磨きのときの汚れの取り方のイメージがつけやすいかもしれません。
力任せや歯ブラシを動かすスピードで汚れが落ちるわけではないとか・・・。
歯ブラシ自体の清潔にも目を向けますと、人気No.1の自動で除菌と乾燥はおまかせの歯ブラシ除菌器が約8,000円ですので、約100円の歯ブラシを月に一度買い替えたとしたら約7年分になります。
どんな方法であっても清潔を保てるのが一番です。
「食前のウォーミングアップ」の説明では、「病室に食事が運ばれてきたら、耳を澄ましてみてください。 必ずどこからともなく咳き込む音が聞こえてきますから。」とのことでした。
予防するためには、先に一口水分を飲んでから食べ始める他にも方法があるそうです。
軽く咳ばらいを先にしてしまうことです。
食事前にお行儀が悪いわけではなく、軽く咳することによって、真っ赤になってむせこむのを防ぐことができます。
軽く咳をしてみることは運動にもなり、体力強化にもつながります。
介護を受ける人にも介護をする人にも、誤嚥性肺炎の予防は、口臭予防や健康にもとても役立つことですので、広める機会がないのは残念です。
地域の健康センターなどで、パンと飲み物セット付講習会や、誤嚥性肺炎予防体操のような楽しく人が集まる機会ができることを願っています。
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(筆者:にゃんきち)